ボンドストックスワップの価格理論
はじめに
債券市場と株式市場の関係は何か?
債券発行と株式発行は企業の資金調達の手段という点では同じであるし、債券市場や株式市場は、その対象企業の信用力により、価格も変動する。両者は確実に相関関係がある。しかしながら両者は結合されることなく、市場として個別に発達してきた。
両者の接点を求める研究は、1970年代より行われてきた。クレジットデフォルトリスクを求めるモデルの一つとして、Black and Scholes (1973)、Merton(1974)が研究した「企業価値に基づくモデル」がその出発点となっている。その後、このモデルを基にした幾つかの研究報告があるが、現在に至るまで、両者を結びつける決定的な価格理論は導かれていない。従って、債券と株式を交換する市場も未だ存在していない。(破産企業の企業再生手段としての、Debt Equity Swapは実在するが、価格理論を基にした市場取引としては、存在していない。)
本論文では、債券と株式を交換する価格理論を分析する。最初に過去の研究内容を紹介し、それを踏まえ、本論文が独自の視点から分析していることを示す。そして実務に利用できる分かりやすい価格モデルを提唱する。このモデルが実際に利用されて、株式と債券の価値の関係が特定できると、次のようなことが可能となる。
①ある特定の発行体の株式と債券を用いた相対価値によるトレーディング戦略。
②転換社債の価格評価
③株式価格と債券価格に基づくデフォルト・リスク評価。
④資本構成の最適化(企業の総市場価値を最大化する最適な資本構成を特定できる。)
そして、論題のボンド・ストック・スワップ市場を創設して、市場参加者を広げると、市場の流動性も満たされ、上記の取引や評価が容易となる。将来その日が来ることを期待するものである。(尚、本論文は、クレジットデリバティブや株式オプションの取引を利用するが、そうした取引自体の価格理論については、本論文の目的ではないので省略する。本論文で前提条件として取上げる、クレジットデフォルトオプションや株式オプションは、既に市場で取引されているので、それを踏まえて、新たな市場を創設しようというのが本論文の目的である。)
2.過去の研究内容
過去の研究内容は、「企業価値に基づくモデル」として発展してきた。このモデルとは、ある特定企業が発行する株式と負債証券の価格どうしを関連づけて、基本的には、企業の負債サイドに掲載されているすべての勘定科目のそれぞれを価格評価する、というものである。Black and Scholes (1973)、Merton(1974)は、企業価値モデルを扱う研究の出発点である。その内容とは、次のようなものである。
企業の総資産価値Vが存在し、不確実に変動すると仮定する。時点Tにおける債券価格B(V,t)、株式価格S(V,t)は、企業価値Vと時間tの関数である。自己資本(株式)S、債務(債券)Bとの関係は、V=S + Bとなる。自己資本と負債はともに、企業の総資産価値Vのデリバティブ証券とみなすことができる。株式と債券を合わせると企業総価値となるので、V=B(V,t)+ S(V,t)という債券価格と株式価格の関係式を導いている。
Black and Cox(1976)
ではこうした方法が拡張され、企業価値が下方境界に到達すれば負債の満期前でもデフォルトが発生する。このモデルはバリア・オプションのモデルに類似している。Black and Cox(1976)
はさまざまな社債や債務特約をこの枠組みで評価する方法を示した。この方法をリスク・ニュートラル環境下で用いる論文には、Merton(1977), Geske(1977), Hull and White(1995), Nielsen et al.(1993), Schonbucher(1996), Zhou(1997)
などがある。
Das(1995), Pierides(1997)
は、企業価値に基づく方法をクレジット・デリバティブの価格評価に応用している。
Bensoussan et al. (1995)
は株式のボラティリティーから企業価値のボラティリティーを求める方法について検討し、レバレッジが株式に与える影響を含む、両者のボラティリティーの関係について、詳細な分析を行っている。
Longstaff and Schwartz(1993)
は、企業価値過程と相関をもちうる確率的金利環境の下で企業価値モデルを用い、デフォルトのある債券の価格について半解析解を導出してみせた。
Lehrbass(1999)
は企業価値に基づく手法をカントリー・リスクのモデル化に応用している。
この「企業価値モデル」を最も実践的に活用した例は、KMVモデルであろう。米KMV社が算定しているEDF(Expected Default Frequency=予想デフォルト確率)は信用リスク判定で注目をされている。KMVモデルは株価や株価の変動率から資産価値や資産の変動率を求める。デフォルトの定義を1年以内に債務不履行が発生するとし、1年後の資産価値と債務不履行との距離(デフォルト距離)を算定して、信用リスクを計測する。但し、モデルの詳細は明らかにされておらず、特に将来の資産価値や資産変動率をどのように算定しているのか、定かではない。
このように、債券と株式の価値の関係を特定する論文は、全てBlack and Scholes (1973)、Merton(1974)の「企業価値モデル」が出発点となり、改良が加えられてきたことになる。企業価値モデルを用いると生じる問題は、資産価値や資産変動率などの未知数がいくつか発生し、モデルの基礎量やその挙動も、容易に観察できないため、実務への応用が難しいことである。
私が提唱する価格モデルは、この「企業価値モデル」とは異なる、独自の視点から分析しているものである。さらに、結論は単純な内容となり、実務への利用も容易と推察できる。この新しい価格モデルである、ボンド・ストック・スワップの価格理論を、解説することにする。
3.クレジットデフォルトオプションと株式オプションの利用
(1)前提条件のポイント
ボンド・ストック・スワップの価格理論を導く手段として、クレジットデフォルトオプション取引と株式オプション取引を利用する。先ずはこの2つの取引の前提条件を設定し、両者を比較する。
前提条件のポイントは次の通り。
①対象企業がデフォルトした場合、同様のキャッシュフローが発生する。
②対象企業がデフォルトしない場合、キャッシュフローは発生しない。
③上記2条件を満たすことにより、両者の価値を等しくする。
さらに、この前提条件は、理論を分かりやすくするため、株式配当金がないものと想定する。
(2)前提条件の設定
内容を簡単にするため、具体的な取引例を前提条件として設定したい。
取引例(①と②の対象企業は同一銘柄)
①デフォルトオプション 想定元本:200億円
期間:1年
デフォルト時回収率:40%(80億円)
デフォルト時決済額:120億円(200億円-80億円)
プレミアム:6億円
②株式オプション 株価:120円
種類:プット
株数:1億株
期間:1年
ストライク価格:120円(At The Money)
ノックイン価格:1円(デフォルト時を想定)
行使方法:アメリカンタイプ
デフォルト時決済額:120億円
(厳密には11,900,000,000円)
プレミアム:6億円
取引例①と②は期間1年以内にデフォルトが発生した場合、決済額(キャッシュフロー)がほぼ同額となる。(誤差は1%未満)②において、アメリカンタイプにする理由は、ノックイン
1円の時点(デフォルト時)でオプションを行使するためである。また、デフォルトが発生しない場合、キャッシュフローは発生しない。従って取引の価値であるプレミアムは理論上同額となる。
(3)デフォルト確率の均衡点
ここでデフォルト確率について検討する。
例えばオプション売却の場合、デフォルト時120億円支払いのリスクテイクをして、その対価であるプレミアムが6億円なので、デフォルト確率は次の通りである。
デフォルト確率=6億円/120億円=5%
(デフォルト時決済を現在価値に修正した場合は、デフォルト確率は上昇する。)
両者の対象企業は同一であるから、両者のデフォルト確率も当然等しくなる。次のステップとして、この前提条件から両者のデフォルト確率の均衡点を求めることで、両者の価格理論の関係式を導きたい。
4.クレジットデフォルトオプションと株式オプションの関係式
(1)前提条件の設定
前提条件の取引例を一般化して設定する。
取引例(①と②の対象企業は同一銘柄)
①デフォルトオプション 想定元本:D
期間:Td年
デフォルト時回収率:R%
デフォルト時決済額:D(1-R%)
プレミアム:Pd
②株式オプション 株価:E
種類:プット
株数:X株
期間:Te年
ストライク価格:E(At The Money)
ノックイン価格:1円(デフォルト時を想定)
行使方法:アメリカンタイプ
デフォルト時決済額:EX
プレミアム:Pe
(2)関係式の構築
デフォルト確率の均衡点を求めることにより、両者の関係式を構築する。
Td
=Teのとき、デフォルト確率は等しくなるため、以下の関係式が成立する。
デフォルト確率=Pd/D(1-R%)=Pe/EX
EX=D(1-R%)Pe/Pd
株式金額(株価×株数)は、デフォルトオプション想定元本からデフォルト時回収額を除いた金額に、両者のプレミアムの割合(Pe/Pd)を乗じたものに理論上等しくなる。市場価格が理論価格と乖離している場合、裁定取引により、市場価格は理論価格に近づくため、E、Pd、Peはそれぞれが影響し合いながら、理論価格を目指して変動していくことになる。
(3)プレミアムについての考察
一般的に、信用リスクを売買するクレジットデリバティブの場合、クレジットデフォルトスワップという形式で、利息を支払う取引が行われている。クレジットデフォルトオプションPdは、そのスワップ利息を現在価値にしたものと同等と解釈して頂きたい。現在価値に割引く金利は、通常の市場金利に信用リスクを上乗せした金利を用いるのが、一般的である。
ノックイン付アメリカンタイプの株式オプションのプレミアムPeは、二項モデルを使用すると理論値は算定できる。ブラックショールズモデル同様、行使価格、期間、原資産価格、原資産利回り、短期金利(安全利子率)、ボラティリティ(予想変動率)の6つの情報があれば求められる。株式オプションのプレミアムPeの主な変動要因は、プレミアム計算で唯一の未知数であるボラティリティーとなる。ボラティリティーとは、日々の株価の変化率の平均値として計算されるもので、統計学でいう標準偏差に当たる。そして、将来の予想変動率のことをインプライドボラティリティーと呼び、過去の株価変化率の平均値を計算したヒストリカルボラティリティーから推測して、インプライドボラティリティー市場が形成され、取引が行われている。
5.ボンド・ストック・スワップの価格理論
(1)デフォルトオプション想定元本=債券金額
デフォルトオプション想定元本は、債券価格100円(額面価格)の架空の債券が想定されており、その仮定に基づいたオプション価格が提示されている。
デフォルト時決済方法も、Physical Settlementという方法があり、デフォルトオプション想定元本と同額の債券現物決済が行われる。(厳密には未払い経過利子も加える。)従って、デフォルトオプション想定元本は債券金額と置き換えられる。
(実際には、両者の価格は完全には一致しないことが多い。両者の価格差に注目した実証分析の論文もある。これには市場の需給関係や、クレジットデリバティブ特有のデフォルト条項などの要因があると推測できる。しかし特に近年のマーケットでは、両者の価格差は僅差であり、本論文において重要な事項ではないものと考える。)
(2)債券から株式への転換式
債券と株式の関係式を求める。
EX=D(1-R%)×Pe/Pd
備考 ①Dは債券金額
②それぞれの変数は前述の前提条件を満たすものとする。
市場価格が理論価格と乖離している場合は、上記関係式が成立しないことになり、裁定機会が生じる。主な変動要因である、E、Pd、Peが、均衡点を目指して変動し、理論価格に収束していくことになる。
この関係式では、未知数は回収率R%のみで、その他の変数は全て特定することができる。
回収率については、様々なモデルが存在し、実証分析も多数あるので、最適モデルを選定する必要がある。そのためには、対象は融資か債券か、対象の期間、回収の定義などを勘案し、回収率を特定する際の誤差に対して頑健なモデルを選定する必要がある。
6.日経平均株価と債券価格(金利)との関係式
(1)日経平均株式オプション
Bond Stock Swapの価格理論を応用して、日経平均株価と債券価格を交換する理論値を算出する。
以下に具体的算定方法を取引例に基づき説明する。
取引例
日経平均株式オプション 株価:E
種類:プット
株数:X株
期間:Te年
ストライク価格:E(At The Money)
ノックイン価格:10円(デフォルトポイント)
行使方法:アメリカンタイプ
デフォルト時決済額:(E-10)×
X
プレミアム:Pe
取引例は、大証に上場されている日経225株価指数オプションのような取引を想定する。
実際にはノックイン付き取引は存在しないが、新たに設定したと仮定する。
取引例では、株価が10円まで下落した時点を、日経平均株価指数という架空の株式がデフォルトするポイントと想定している。取引がアメリカンタイプであるため、ノックイン価格10円の時点(デフォルト時)でオプションは行使される。尚、デフォルトポイントは、各々の判断で自由に設定できる。
ここで期間Te年以内のデフォルト確率について検討する。
例えばプットオプション売却の場合、デフォルト時支払い額は、(E-10)×
X
となる。
その対価であるプレミアムがPeなので、デフォルト確率は次の通りである。
デフォルト確率=Pe/(E-10)×
X
(デフォルト時支払い額を現在価値に修正した場合は、デフォルト確率は上昇する。)
ノックイン付アメリカンタイプの株式オプションのプレミアムPeは、個別株式オプション取引同様、二項モデルを使用すると理論値は算定できる。
(2)日経平均債券
次に、日経平均債券という架空の債券を想定する。
債券の金利はデフォルト確率を表現しているが、デフォルト時の債権回収率を勘案する
必要がある。以下に取引例を示し説明する。
取引例
日経平均債券 金額:D
期間:Td年
デフォルト時回収率:R%
デフォルト時決済額:D(1-R%)
プレミアム:Pd
取引例では便宜的にプレミアムPdとしたが、そのプレミアムとは、債券利息を現在価値にしたものと同等と解釈して頂きたい。現在価値に割引く金利は、通常の市場金利に信用リスクを上乗せした金利を用いるのが、一般的である。
この場合、デフォルト時支払い額は、D(1-R%)であり、その対価であるプレミアムがPdなので、デフォルト確率は次の通りである。
デフォルト確率=Pd/D(1-R%)
前述した株価から求めたデフォルト確率からTe=Tdの時、次の等式が成り立つ。
Pe/(E-10)×
X
= Pd/D(1-R%)
回収率R%について、日経225銘柄を勘案して回収率を特定する必要がある。
プレミアムPdについて、日経平均債券という債券は存在しないので、債券利息もPdも存在しない。従って上記式の唯一の未知数となるため、上記式からPdを計算することになる。
(3)日経平均株価と債券価格(金利)との関係式
最後に、市場では日経平均債券は存在しないので、実際に存在する商品、例えば債券先物とのスプレッドを求めることにより、実用化する。
取引例
債券先物 金額:D
価格:Y
債券先物取引は、利息6%、期間10年の国債という架空の債券である。この架空の債券の現在価値と、現在の価格Yとの差額がプレミアムになる。プレミアムをPSとする。
PS+α=Pd (αは両者のスプレッド)
Pe/(E-10)×
X
=(PS+α)/D(1-R%)
日経平均債という架空の債券のプレミアムPdを求めて、債権先物とのスプレッドαを取引する市場を創設することにより、日経平均株価と債券先物市場が結合できる。
日経平均株価と債券価格を交換する市場を創設して、両者のポートフォリオをヘッジし合える新たな金融ビジネスを開発する。
最後に、当然のことではあるが、取引例では、日経平均と日本の債券先物を使用したが、例えば、米国のニューヨークダウ平均と米国債先物とのスワップなど、外国の金融市場でも全て同様の理論でスワップ取引が可能である。
7.将来の展望
ボンド・ストック・スワップの市場を創設し、債券と株式の交換を可能にしたい。
本論文のモデルが標準化されれば、金融機関のディーラーやファンドマネージャーたちの裁定取引が活発に行われ、理論価格に近い市場取引が形成されていく。また、理論価格と市場価格に乖離幅が生じれば、その乖離幅のスプレッド取引をすることで、市場創設は容易に可能である。これは、日経平均株価と債券先物との関係式のみならず、株式と債券の関係式でも同様である。そうした経緯の後、ボンド・ストック・スワップ市場が形成されていく。
株式市場と債券市場が結合されることにより、一般企業や個人投資家による、株と債券を組み合わせた新たな投資ニーズやリスクヘッジニーズが見込まれる。例えば、信用リスクヘッジを例にすると、債券と株式の理論価格を求め、債券の方が割高の場合は、株式売却より債券売却の方が有利と判断できる。その反対に投資をする場合、割安な株式が有利と判断できる。(但しPeの変動要因である株価ボラティリティーに注意を要する。)
転換社債の価格評価も容易になる。株式転換価格を株式と債券を交換する理論値と比較することにより、投資する判断材料ができる。
さらに、債券と株式の価値の比較ができると、経営側から見た企業統治にも大きな影響を及ぼす。
例えば、株式価格と債券価格から両者に等しいデフォルト確率の均衡点が求められれば、それに基づくデフォルトリスク評価が可能となる。このデフォルト確率が企業格付の一つの指標となる可能性がある。格付会社の格付方法に一石を投じるかもしれない。
企業の信用リスク判定が出来れば、金融機関を含む企業が保有する信用リスクを算定して、信用リスクアドバイスをするビジネスモデルが構築できる。信用リスクの算定は格付け会社の格付けに頼る企業が多い中、格付け会社とは違い、主観や判断を一切交えず、株式市場から得られる情報をベースに、個別企業ごとに信用リスクを算定する。信用リスクの変化をリアルタイムでフォローでき、信用リスクが悪化した際には、素早くその兆候を発することができる。格付け会社と大きく異なるストロングポイントは、主観や判断を一切交えず、株式市場から得られる情報をベースにすること、信用リスクの変化をリアルタイムでフォローできることの2点である。
さらに、株式と債券の価値の比較ができると、資本構成の最適化の検討もできる。すなわち、企業の総市場価値を最大化する最適な資本構成を特定できるようになる。例えば、 ある企業が資金調達をする場合、株価より債券発行の価格の方が割安であると判断できれば、増資するより社債発行により債務を発生させた方が、企業の価値は高められる可能性が出てくる。これまでの企業価値は、株式時価総額で比較してきたものの、ここで提唱するのは、資本構成の最適化による資産価値の最大化である。新しい企業価値を評価するモデルとしても、提案していきたい。
ボンド・ストック・スワップ取引は、様々な分野で応用できる可能性があり、経済界の常識を変えられる可能性も秘めている。実現することを期待したい。
参考
為替レートと債券価格(金利)との関係式
同様の理論を応用して、為替レートと債券価格を交換する理論値を算出する。
以下に具体的算定方法を取引例に基づき説明する。
取引例
米ドル/円通貨オプション 為替レート:E円/米ドル
種類:米ドルプット/円コール
金額:X米ドル
期間:Te年
ストライク価格:E円(At The Money)
ノックイン価格:10円(デフォルトポイント)
行使方法:アメリカンタイプ
デフォルト時決済額:(E-10)×
X 円
プレミアム:Pe 円
取引例では、為替レートが1米ドル10円まで下落した時点を、米国のデフォルトポイントと想定している。取引がアメリカンタイプであるため、ノックイン価格10円の時点(デフォルト時)でオプションは行使される。尚、デフォルトポイントは、各社の判断で自由に設定できる。
ここで期間Te年以内のデフォルト確率について検討する。
例えばプットオプション売却の場合、デフォルト時支払い額は、(E-10)×
X 円となる。
その対価であるプレミアムがPeなので、デフォルト確率は次の通りである。
デフォルト確率=Pe/(E-10)×
X
(デフォルト時支払い額を現在価値に修正した場合は、デフォルト確率は上昇する。)
国のデフォルト確率から、その国の信用リスクを算定するモデルである。
次に債券のデフォルト確率を算定する。金利はデフォルト確率を表現しているが、デフォルト時の債権回収率を勘案する必要がある。以下に取引例を示し説明する。
取引例
米国債 金額:D 米ドル
期間:Td年
デフォルト時回収率:R%
デフォルト時決済額:D(1-R%)
プレミアム:Pd (米ドル)
取引例では便宜的にプレミアムPdとしたが、そのプレミアムとは、債券利息を現在価値にしたものと同等と解釈して頂きたい。現在価値に割引く金利は、通常の市場金利に信用リスクを上乗せした金利を用いるのが、一般的である。
この場合、デフォルト時支払い額は、D(1-R%)であり、その対価であるプレミアムがPdなので、デフォルト確率は次の通りである。
デフォルト確率=Pd/D(1-R%)
前述した株価から求めたデフォルト確率からTe=Tdの時、次の等式が成り立つ。
Pe/(E-10)×
X
= Pd/D(1-R%)
為替レートEと米国債Dの価格や金利を表すプレミアムPdの関係式が成立し、両者の比較が可能となる。即ち為替レートと国債の関係式が成立する。
為替市場と国債市場は、理論上結合できることになる。為替レートと債券価格を交換する市場を創設して、両者のポートフォリオをヘッジし合える新たな金融ビジネスを開発する。
さらに、取引例は、米ドルと円の関係式を試みたが、米ドルとユーロ、米ドルとポンドなど、異種通貨間で様々な組み合わせも可能である。そして、米国のデフォルト確率は全ての通貨の組み合わせでも理論上同一となる。従って、異種通貨それぞれのオプションプレミアムPeの裁定機会も生じることになる。即ち、円、ユーロ、ポンド等々、様々な通貨のオプションプレミアムPeは、米国のデフォルト確率が等しくなる点で均衡することになる。均衡しない場合は裁定機会が生じ、為替レートやボラティリティー等の変数は、理論的には均衡点を目指すようになる。こうした裁定機会を利用した異種通貨間のポートフォリオをヘッジする方法も同様に可能となる。
最後に、当然のことであるが、取引例は米国のデフォルト確率を基準としたが、日本のデフォルト確率を基準に、為替レートと日本国債との関係式も構築できる。その他、為替市場と国債市場のある通貨と国々は、全て同様の関係式が構築できる。
参考文献
フィリップ・J・シェンーブッハー(2003) クレジットデリバティブ-訳者:望月衛、2005年3月31日 東洋経済新報社発行(原文名:Philip Schonbucher(2003)
Credit Derivatives Pricing Models: Models, Pricing and Implementation)
Black, F and M, Scholes (1973)
The pricing of options and corporate liabilities.
‐Journal of Political Economy, 81(3):637-654
Merton, R. C. (1974) On the pricing of corporate debt : the risk structure of interest rate.
– Journal of Finance, 29(2):449-470
Zhu, Haibin (2004) An Empirical Comparison of Credit Spreads Between the Bond Market and the Credit Default Swap Market. EFMA 2004 Basel Meetings Paper, BIS Working Paper No. 160
週間東洋経済 2002年1月26日 東洋経済新報社発行
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